最初のセッションバンド、 Cちゃんブラザーズ

 いろいろなバンドを聞いているうちに、バンドとは無関係に気に入ったミュ
ージシャンだけを組み合わせた自分なりのスーパーセッションを聞きたくなっ
てきた。はじめての相手と演奏すれば、音楽的にも互いに刺激になるし、次郎
吉だけでしか聞けない組み合わせの演奏が聞けるのだから、音楽にうるさい常
連客も喜んでくれるはずだ。すぐに気に入ったミュージシャンに直接電話して
次郎吉セッションを組むことにした。最初のセッションの中心になったのは元
サウス・トウ・サウスの初代ドラマーのCちゃん(井上茂)だった。Cちゃん
のドラムを初めて聞いたのは、次郎吉でのサウスのライブの時に遊びにきてい
たCちゃんが途中で飛び入りし、ドラムを叩いた時だった。センスのいいドラ
ミングと乗りのいいビートに一発で惚れ込んだ俺は、アメリカから帰ってきた
ばかりで、住む場所も音楽の方向性も決まっていなかったCちゃんに、東京で
活動をするように強く勧めた。Cちゃんが上京を決意した時には、大阪まで車
で引っ越しの手伝いに行き、帰りにフトンを積んできたのを憶えている。
 上京したばかりのCちゃんを盛り立てるために、毎月、Cちゃんを中心にし
たセッションを組むことにした。Cちゃんはこのセッションで自分のオリジナ
ル曲も実験的に演奏しはじめた。「Cちゃん・セッション」は、粋なセンスの
サウンドとビートですぐに固定客をつかみ、次郎吉の呼び物の一つになってき
た。流動的なセッション・メンバーが固定化してくると、バンドを結成するべ
きだという声がまわりから出はじめ、やがて出来あがったのがCちゃん・ブラ
ザースだ。
 メンバーは、元サウスのCちゃん(井上茂)、元サウスのクンチョー(堤和
美、リズムギター・ヴォーカル)、元ウェストの塩次伸二(リードギター)、
元ウェストの薩摩光二(サックス)、元ミューテーションのダッチ(増岡正、
パーカッション)、リュージ(宮内、キーボード)、宇塚隆二(ベース)とい
う顔ぶれだ。ミューテーションというのは、大阪でCちゃんがリーダーをして
いたソウル・ディスコバンドだ。このメンバーに、渡辺貞夫、森園勝敏、大村
憲司といったジャズ、ロック畑のミュージシャンが参加してよくセッションを
やっていた。このようなジャム・セッション形式のライブは当時まだ珍しく、
お客もミュージシャン自身も新鮮な刺激を受けた。
 実は最初の頃はほとんどのメンバーが関西にいたので、「次郎吉セッション」
のたびに車で東京に出て来ていたのが、そのうちに一人、また一人と東京に引
越して来た。こうして「次郎吉セッション」はますますにぎやかになり、次郎
吉の名物となった。

アフターアワーズの楽しみ 真夜中の次郎吉セッション

 ライブも終り、やっと店が落ち着いてくる11時過ぎになると、常連や仕事帰
りのミュージシャン達がいつのまにか集まってきて飲み始める。カウンターで
は本田さんのグループが焼酎の一気飲みで盛りあがる。一晩中、ダーツに狂っ
ている連中もいた。ある晩、ふらっと顔を出したCちゃんが飲み物を頼んだ後、
カウンターで取り巻きと大酒をくらっていた本田さんをちらっと見てからステ
ージに向かって歩きだした。そして静かにドラムセットを組み立てチューニン
グを済ませると、黙々とビートを刻みはじめた。誰が聞いているわけでもない。
一緒に演奏する人間がいるわけでもない。それでもCちゃんは額にうっすらと
汗を浮かべ鬼のような顔で、力強くビートを刻み続けている。はじめは気にし
ていなかった本田さんも、ノリのいいビートとサウンドに引き込まれ、真剣な
顔で聞きはじめた。Cちゃんは、ドラムで本田さんに勝負を挑んでいるのだ。
受けて立たぬはミュージシャンの恥、本田さんも遂に立ちあがりピアノに向か
った。そしてすぐにはじまった火花を散らすようなジャムセッションを、店に
いた人間は息をつめて見守っていた。
 ジャムセッションはいつもこんな風に突然はじまったが、ライブハウスなら
ではのミュージシャンたちの真剣勝負を見ようと、深夜になると顔を出す客も
多かった。
 「次郎吉はミュージシャンの好きなようにやらせてくれる場所や。勝手にセ
ッティングしてようやってたわ」と山岸潤史はいう。「相手がおらんでも、一
人だけでやったっていうのは、Cちゃんと本田さんと俺くらいやな。次郎吉に
泊まったこともあったけど、真っ暗で怖かったな」
 本田さんは、「セッションで印象に残ってるのは、Cちゃん」だったという。
「俺、ポップな8ビートが大好きなんだ。Cちゃんはぴったりハマってたね。
あとは山岸とか入道とかね。よく朝まで飲んだりセッションしたりしてたよ」
 閉店まぎわの空っぽの店で、ニューヨーク帰りのジャズピアニスト、プーさ
ん(菊地雅章)がさりげなく弾きはじめた「グリーン・スリーヴス」も涙が出
そうになるほど感動的だった。こんな深夜のハプニングに頻繁に遭遇できるの
がライブハウスのマスター、スタッフ、常連客の特権だろう。

…第一章終わり。
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